鉄道唱歌（奥州線・磐城線）

鐵道唱歌
鉄道唱歌目次へ　前へ　次へ

東京音樂學校助敎授　田村虎藏作曲大阪師範學校敎諭　多梅稚作曲
地理教育	鐵道唱歌	第三集
		大和田建樹作歌

奥州線－磐城線

一　汽車は烟を噴き立てゝ　　　　今ぞ上野を出でゝゆく　　ゆくへは何く陸奥の　　　　青森までも一飛に	上野田端
二　王子に着きて仰ぎみる　　　　森は花見し飛鳥山　　土器なげて遊びたる　　　　江戸の名所の其一つ	王子
三　赤羽すぎて打ちわたる　　　　名も荒川の鐵の橋　　その水上は秩父より　　　　いでゝ墨田の川となる	赤羽蕨
四　浦和に浦は無けれども　　　　大宮驛に宮ありて　　公園ひろく池ふかく　　　　夏のさかりも暑からず	浦和大宮
五　中山道と打わかれ　　　　ゆくや蓮田の花ざかり　　久喜栗橋の橋かけて　　　　わたるはこれぞ利根の川	蓮田久喜栗橋
六　末は銚子の海に入る　　　　板東太郎の名も高し　　みよや白帆の絶間なく　　　　のぼればくだる賑を
七　次に來るは古河間々田　　　　兩手ひろげて我汽車を　　萬歳と呼ぶ子供あり　　　　おもへば今日は日曜か	古河間々田
八　小山をおりて右にゆく　　　　水戸と友部の線路には　　紬産地の結城あり　　　　櫻名所の岩瀬あり	小山・結城・岩瀬
九　左にゆけば前橋を　　　　經て高崎に至るべし　　足利桐生伊勢崎は　　　　音に聞こえし養蠶地	・足利・桐生伊勢崎
一〇　金と石との小金井や　　　　　石橋すぎて秋の田を　　　立つや雀の宮鼓　　　　　宇都宮にもつきにけり	小金井石橋雀宮宇都宮
一一　いざ乘り替へん日光の　　　　　線路これより分れたり　　　二十五マイル走りなば　　　　　一時半にて着くといふ	・日光
一二　日光見ずは結構と　　　　　いふなといひし諺も　　　おもひしらるゝ宮の様　　　　　花か紅葉か金襴か
一三　東照宮の壯麗も　　　　　三代廟の高大も　　　みるまに一日日ぐらしの　　　　　陽明門は是かとよ
一四　瀧は華嚴の音たかく　　　　　百雷谷に吼え叫ぶ　　　裏見霧降とりどりに　　　　　雲よりおつる物すごさ	岡本寶積寺氏家片岡
一五　又立ちかへる宇都宮　　　　　急げば早も西那須野　　　こゝよりゆけば鹽原の　　　　　温泉わづか五里あまり	矢板野崎西那須野
一六　霰たばしる篠原と　　　　　うたひし跡の狩場の野　　　たゞ見る薄女郎花　　　　　殺生石はいづかたぞ
一七　東那須野の青嵐　　　　　ふくや黒磯黒田原　　　こゝは何くと白河の　　　　　城の夕日は影赤し	東那須野黒磯黒田原豐原白河
一八　秋風吹くと詠じたる　　　　　關所の跡は此ところ　　　會津の兵を官軍の　　　　　討ちし維新の古戰場
一九　岩もる水の泉崎　　　　　矢吹須賀川冬の來て　　　むすぶ氷の郡山　　　　　近き湖水は猪苗代	泉崎矢吹須賀川郡山
二〇　こゝに起りて越後まで　　　　　つゞく岩越線路あり　　　工事はいまだ半にて　　　　　今は若松會津まで	・若松
二一　日和田本宮二本松　　　　　安達が原の黒塚を　　　見にゆく人は下車せよと　　　　　案内記にもしるしたり	日和田本宮二本松
二二　松川すぎてトン子ルを　　　　　いづれば來る福島の　　　町は縣廳所在の地　　　　　板倉氏の舊城下	松川福島
二三　しのぶもじずり摺り出だす　　　　　石の名所も程近く　　　米澤ゆきの鐵道は　　　　　此町よりぞ分れたる	・米澤
二四　長岡おりて飯坂の　　　　　湯治にまはる人もあり　　　越河こして白石は　　　　　はや陸前の國と聞く	長岡桑河藤田越河白石
二五　末は東に入る　　　　　阿武隈川も窓ちかく　　　盡きぬ唱歌の聲あげて　　　　　躍り來れるうれしさよ	大河原槻木
二六　岩沼驛のにぎはひは　　　　　春と秋との馬の市　　　千里の道に鞭うちて　　　　　すゝむは誰ぞ國のため	岩沼長町
二七　東北一の都會とて　　　　　其名しられし仙臺市　　　伊達政宗の築きたる　　　　　城に師團は置かれたり	仙臺
二八　阿武隈川の埋木も　　　　　仙臺平の袴地も　　　皆この土地の産物ぞ　　　　　みてゆけこゝも一日は
二九　愛宕の山の木々青く　　　　　廣瀬の川の水白し　　　櫻が岡の公園は　　　　　花も若葉も月雪も
三〇　多賀の碑ほどちかき　　　　　岩切おりて乘りかふる　　　汽車は鹽竈千賀の浦　　　　　いざ船よせよ松島に	岩切・鹽竈
三一　汽車に乘りても松島の　　　　　話かしまし鹿島臺　　　小牛田は神の宮ちかく　　　　　新田は沼のけしきよし	利府松島鹿島臺小牛田瀬峰新田
三二　水は河瀬の石こして　　　　　さきちる波の花泉　　　一の關より陸中と　　　　　きけば南部の舊領地	石越花泉一ノ關
三三　阿部の貞任義家の　　　　　戰ありし衣川　　　金色堂を見る人は　　　　　こゝにておりよ平泉	平泉前澤水澤
三四　すぎゆく驛は七つ八つ　　　　　山おもしろく野は廣し　　　北上川を右にして　　　　　つくは何くぞ盛岡市	金崎黒澤尻石鳥谷日詰矢幅盛岡
三五　羽二重おりと鐵瓶は　　　　　市の産物と知られたり　　　岩手の山の峰よりも　　　　　南部の馬の名ぞ高き
三六　好摩川口沼宮内　　　　　中山小鳥谷一の戸と　　　すぎゆくまゝに變りゆく　　　　　土地の言葉もおもしろや	好摩川口沼宮内中山小島谷一ノ戸福岡三ノ戸
三七　尻内こせば打ちむれて　　　　　遊ぶ野馬の古間木や　　　今日ぞ始めて陸奥の　　　　　海とは是かあの船は	劍吉尻内下田古間木沼崎乙供
三八　野邊地の灣の左手に　　　　　立てる岬は夏泊　　　とまらぬ汽車のすゝみよく　　　　　八甲田山も迎へたり	野邊地狩場澤小湊淺虫
三九　渚に近き湯野島を　　　　　見つゝくゞれるトン子ルの　　　先は野内か浦町か　　　　　浦のけしきの晴れやかさ	野内浦町
四〇　勇む笛の音いそぐ人　　　　　汽車は著きけり青森に　　　むかしは陸路廿日道　　　　　今は鐵道一晝夜	青森
四一　津輕の瀬戸を中にして　　　　　凾館までは二十四里　　　ゆきかふ船の煙にも　　　　　國のさかえは知られけり
四二　汽車のりかへて弘前に　　　　　あそぶも旅の樂しみよ　　　店にならぶは津輕塗　　　　　空に立てるは津輕富士	・弘前
四三　歸りは線路の道かへて　　　　　海際づたひ進まんと　　　仙臺すぎて馬市の　　　　　岩沼よりぞ分れゆく	（歸路）仙臺岩沼
四四　道は磐城をつらぬきて　　　　　常陸にかゝる磐城線　　　ながめはてなき海原は　　　　　亞米利加までやつゞくらん	亘理吉田坂元新地
四五　海にしばらく別れゆく　　　　　小田の緑の中村は　　　陶器産地と兼ねて聞く　　　　　相馬の町をひかへたり
四六　中村いでゝ打ちわたる　　　　　川は眞野川新田川　　　原の町より歩行して　　　　　妙見まうでや試みん	中村鹿島原ノ町磐城太田小高
四七　浪江なみうつ稲の穂の　　　　　長塚すぎて豐なる　　　里の富岡木戸廣野　　　　　廣き海原みつゝゆく	浪江長塚富岡木戸廣野
四八　しばしばくゞるトン子ルを　　　　　出てはながむる浦の波　　　岩には休む鴎あり　　　　　沖には渡る白帆あり
四九　君が八千代の久の濱　　　　　木奴美が浦の波ちかく　　　をさまる國の平町　　　　　並が岡のけしきよし	久ノ濱四ツ倉草野平
五〇　綴湯本をあとにして　　　　　ゆくや泉の驛の傍　　　しるべの札の文字みれば　　　　　小名濱までは道一里	綴湯本泉植田
五一　道もせに散る花よりも　　　　　世に芳ばしき名を留めし　　　八幡太郎が歌のあと　　　　　勿來の關も見てゆかん	勿來
五二　關本おりて平潟の　　　　　港にやどる人もあり　　　岩の中道ふみわけて　　　　　磯うつ波も聞きがてら	關本
五三　あひて別れて別れては　　　　　またあふ海と磯の松　　　磯原すぎて高萩に　　　　　假るや旅寢の高枕	磯原高萩川尻
五四　助川さして潮あびに　　　　　ゆけや下孫孫も子も　　　驛夫の聲におどろけば　　　　　いつしか水戸は來りたり	助川下孫大甕石神佐和
五五　三家の中に勤王の　　　　　その名知られし水戸の藩　　　わするな義公が撰びたる　　　　　大日本史のその功	水戸
五六　文武の道を弘めたる　　　　　弘道館の跡とへば　　　のこる千本の梅が香は　　　　　雪の下よりにほふなり	赤塚内原
五七　つれだつ旅の友部より　　　　　わかるゝ道は小山線　　　石岡よりは歌によむ　　　　　志筑の田井も程ちかし	友部岩間羽鳥石岡高神立
五八　間もなく來る土浦の　　　　　岸を浸せる水海は　　　霞ヶ浦の名も廣く　　　　　汽船の笛の音たえず	土浦荒川沖牛久佐貫藤代取手
五九　雲井の空に耳二つ　　　　　立てたる駒の如くにて　　　みゆる高嶺は男體と　　　　　女體そびゆる筑波山
六〇　峰にのぼれば地圖一つ　　　　　ひろげし如く見えわたる　　　常陸の國のこゝかしこ　　　　　利根のながれの末までも	我孫子柏馬橋松戸金町龜有
六一　松戸をおりて國府の臺　　　　　ゆけば一里に足らぬ道　　　眞間の手兒名が跡といふ　　　　　寺も入江ものこるなり
六二　車輪のめぐり速に　　　　　千住大橋右に見て　　　環の端の限なく　　　　　ふたゝびもどる田端驛	北千住南千住田端
六三　むかしは鬼の住家とて　　　　　人のおそれし陸奥の　　　はてまでゆきて時の間に　　　　　かへる事こそめでたけれ
六四　いはへ人々鐵道の　　　　　ひらけし時に逢へる身を　　　上野の山もひゞくまで　　　　　鐵道唱歌の聲立てゝ	上野

戻る