十七条憲法
推古天皇１２年４月３日

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一ニ曰ク、 和ヲ以テ貴シト爲シ、忤フコト無キヲ宗ト爲セ、
人皆黨有リ、亦達レル者少シ、
是ヲ以テ、或ハ君父ニ順ハズシテ乍タ隣里ニ違フ、
然レドモ上和ラギ、下睦ビテ、事ヲ論フニ諧フトキハ、
則チ事理自ラ通フ、何事カ成ラザラム
二ニ曰ク、 篤ク三寶ヲ敬ヘ、三寶ハ佛法僧ナリ、
則チ四生ノ終歸、萬國ノ極宗ナリ、
何ノ世何ノ人カ是ノ法ヲ貴バザル、
人尤タ惡シキモノハ鮮シ、能ク敎フルヲモテ從ヒヌ、
其レ三寶ニ歸リマツラズハ、何ヲ以テカ枉レルヲ直サム
三ニ曰ク、 詔ヲ承ハリテハ必ズ謹メ、君ヲバ則チ天トス、
臣ヲバ則チ地トス、天覆ヒ地載セテ
四時順リ行キ、萬氣通フコトヲ得、
地天ヲ覆ハント欲ルトキハ則チ壊ルルコトヲ致サムノミ、
是ヲ以テ君言フトキハ臣承ハリ、上行フトキハ下靡ク、
故ニ詔ヲ承ハリテハ必ズ愼メ、謹マズハ自カラニ敗レナム
四ニ曰ク、 群卿百僚、禮ヲ以テ本ト爲ヨ、
其レ民ヲ治ムルノ本ハ要ズ禮ニ在リ
上禮ナキトキハ下齊ホラズ、下禮無キトキハ、必ズ罪有リ、
是ヲ以テ群臣禮有ルトキハ位次亂レズ、
百姓禮有ルトキハ國家自カラ治マル
五ニ曰ク、 餮ヲ絶チ欲ヲ棄テテ、明カニ訴訟ヲ辨メヨ、
其レ百姓ノ訟ハ、一日ニ、千事アリ、
一日スラ尚爾ルヲ、況ヤ歳ヲ累ネテヲヤ、
頃ロ訟ヲ治ムル者利ヲ得テ常ト爲シ、
賄ヲ見テコトワリヲ聽ス、便チ財有ルモノノ訟ハ、
石ヲモテ水ニ投グルガ如シ、乏シキ者ノ訟ハ、
水ヲモテ石ニ投グルニ似タリ、是ヲ以ラ貧シキ民、
則チ所由ヲ知ラズ臣ノ道亦焉ニ闕ケヌ
六ニ曰ク、 惡ヲ懲シ善ヲ勸ムルハ古ノ良典ナリ、
是ヲ以テ、人ノ善ヲ匿スコト無ク、惡ヲ見テハ必ズ匡セ、
其レ諂ヒ詐ク者ハ、則チ國家ヲ覆ヘス利器タリ、
人民ヲ絶ツノ鋒刄タリ、亦侫シク媚ブル者ハ
上ニ對ヒテハ則チ好ミテ下ノ過ヲ説キ、下ニ逢ヒテハ則チ上ノ失ヲ誹謗ル、
其レ如此ノ人ハ皆君ニ忠無ク、
民ニ仁ナシ、是レ大亂ノ本ナリ
七ニ曰ク、 人各任有リ、掌ルコト宜シク濫レザルベシ、
其レ賢シキ哲ヲ官ニ任ストキハ、頌ムル音則チ起リ、
奸シキ者官ヲ有ツトキハ、禍イ亂レ則チ繁シ、
世ニ生レナガラ知ルコト少ナケレドモ、剋ク念ヒテ聖ト作ル、
事ニ大キト少キト無ク、人ヲ得テ必ズ治リ、
時ニ急キト緩キト無ク、賢ニ遇ヒテ自カラ寛ナリ、
此ニ因リテ國家永ク久シクシテ、社稷危キコト勿シ、
故レ古ノ聖王、官ヲ爲ナテ以テ人ヲ求ム、
人ノ爲メニ官ヲ求メタマハズ
八ニ曰ク、 群卿百僚、早ク朝リ晏ク退デヨ、
公事監靡シ、終日ニモ盡シ難シ、
是ヲ以テ遲ク朝レバ、急ナルニ逮バズ、
早ク退レバ、必ズ事盡サズ
九ニ曰ク、 信ハ是レ義ノ本ナリ、事毎ニ信有レ、
其レ善惡成敗、要ズ信ニ在リ、
群臣共ニ信アルトキハ、何事カ成ラザラム、
群臣信ナケレバ、萬事悉ニ敗ル
十ニ曰ク、 忿ヲ絶チ瞋ヲ棄テテ、人ノ違フヲ怒ラザレ、
人皆心有リ、心各執ルコト有リ、
彼レ是ムズレバ、則チ我レハ非ムズル、我レ是ムズレバ、則チ彼レ非ムズル、
我レ必ズシモ聖ニ非ズ、彼レ必ズシモ愚ニ非ズ、
共ニ是凡夫ノミ、是非ノ理、
タレカ能ク定ム可キ、相共ニ賢愚ナルコト、
鐶ノ端无キガ如シ、是ヲ以テ、彼ノ人ハ瞋ルト雖モ、
還ツテ我ガ失ヲ恐レヨ、我レ獨リ得タリト雖モ、
衆ニ從ヒテ同ジク擧ヘ
十一ニ曰ク、 功過ヲ明察ニシテ、賞罰必ズ當テヨ、
日者、賞、功ニ在テセズ、罰、罪ニ在テセズ、
事ヲ執ル群卿、宜シク賞罰ヲ明カニスベシ
十二ニ曰ク、 國司、國造、百姓ニ斂ナトルコト勿レ、
國ニ二君非シ、民ニ兩主無シ、
率土ノ兆民、王ヲ以テ主ト爲ス、
所任官司ハ、皆是レ王臣ナリ、
何ゾ敢テ公ト與ニ、百姓ニ賦メ斂ラム
十三ニ曰ク、 諸ノ任セル官者、同ジク職掌ヲ知レ、
或ハ病ヒシ、或ハ使シテ、事ニ闕ルラム、
然レドモ知ルコトヲ得ル日ニハ、和フコト曾ヨリ識レルガ如クセヨ、
其レ與リ聞クコト非シトイフヲ以テ、公務ヲ妨グルコト勿レ
十四ニ曰ク、 群臣百僚、嫉妬有ルコト無カレ、
我レ既ニ人ヲ嫉メバ、人亦我ヲ嫉ム、
嫉妬ノ患、其ノ極ヲ知ラズ、
所以ニ智己レニ勝レバ則チ悦バズ、才己レニ優レバ則チ嫉妬ム、
是ヲ以テ五百歳ノ後、乃賢ニ遇ハシムレドモ、千載ニシテモ以テ一聖ヲ待ツコト難シ、
其レ賢聖ヲ得ザルトキハ、何ヲ以テカ國ヲ治メム
十五ニ曰ク、 私ヲ背キテ公ニ向クハ、是レ臣ノ道ナリ、
凡ソ人私有レバ必ズ恨有リ、憾有ルトキハ必ズ同ラズ、
同ラザレバ、則チ私ヲ以テ公ヲ妨グ、憾起ルトキハ則チ制ニ違ヒ法ヲ害ル、
故ニ初ノ章ニ云ヘラク、上下和ヒ諧レト、
其レ亦是ノ情ナル歟
十六ニ曰ク、 民ヲ使フニ時ヲ以テスルハ古ノ良典ナリ、
故レ冬月ニハ間有リテ以テ民ヲ使フ可シ、
春ヨリ秋ニ至リテハ、農桑ノ節ナリ、
民ヲ使フ可カラズ、其レ農セザレバ何ヲカ食マム、
桑トラズバ何ヲカ服ム
十七ニ曰ク、 物事ハ獨リ斷ム可カラズ、必ズ衆ト與ニ論フベシ、
少事ハ是レ輕シ、必ズシモ衆トス可カラズ、
唯大事ヲ論フニ逮ビテハ、若シ失有ラムコトヲ疑フ、
故ニ衆ト與ニ相辨フルトキハ、辭則チ理ヲ得ム